人を笑わせて場を盛り上げるのが苦手な人のための、コミュニケーションの戦略。

何度か書いていることだけれども、僕は人を笑わせたり、楽しませたりすることが苦手だ。

 

もちろん、僕と波長の合う人であれば、「村上春樹風に昨日の出来事を描写する」とか、「『シャイニング』のジャック・ニコルソンの顔真似をする」とかいったアホな遊びで、大変楽しく過ごすことができる。しかし、そんな人と出会えることは非常に稀だ。

 

特に今僕がいるテレビ広告業界においては、上で書いたようなことを「遊び」として楽しんでくれる人は「非常に少ない」と言わざるをえないだろう。(面白いことを言って笑わせることや、場を盛り上げることへの情熱にかけては、この業界の人の右に出るものはいないと思うけど。)

 

僕が「スクールカースト」から解放された日 でも書いたように、僕は生来、人を笑わせることが苦手だ。タイミング良くコミュニケーションを取って、うまいこと相手を楽しませるということができない。それを意識して面白いことを言おうとして、さらに変な感じになって場が凍りついてしまう。これまで何度も味わってきた、嫌な感覚だ。

 

そんな僕と同じ「場を盛り上げるのが苦手な人」に向けて、この記事を書いてみた。

 

少しでも気楽に、人と接することができるようになってもらえれば幸いだ。

 

 

 

「場を盛り上げるのが苦手な人のコミュニケーション戦略」を考える上で、まず、コミュニケーションというものを概観し、その後目指すべき方向性を示していこう。

 

コミュニケーションは、「テーマ」と「姿勢」の2つの軸で考えることができる。これは、「何を話すか」=Whatにあたる部分と、「どう話すか」=Howにあたる部分、と言い換えてもいい。

 

「テーマ」、つまり「何を話すか」についての軸の両極にあるのが、「最大公約数」と「ニッチ」という2つの項目だ。

 

「最大公約数」とは、幅広く多くの人が興味を持つであろうテーマのこと。少し前までは、ほぼイコールで「テレビで話題になっているようなこと」と捉えてもよかった。「最大公約数」は自分の今いる世界によっても変わってくるが、例えば僕のいるトラディショナルなニッポンのサラリーマン社会においては、プロ野球やクルマの話というのがそれなりに「最大公約数的な話題」になるだろう。

 

「ニッチ」とは、範囲は非常に限定されるものの、共感し合えれば非常に深い部分まで話し込めるテーマのことだ。冒頭の「ジャック・ニコルソンの顔真似」などは、映画好きの間でならそれなりに「公約数」かもしれないが、一般的にはかなり「ニッチ」なテーマと言えるだろう。

 

「最大公約数」と「ニッチ」は両極端ではあるが、実際のテーマというのはこの2つの間のグラデーションのどこかに位置している。

 

また「姿勢」、つまり「どう話すか」についての軸は、 「プッシュ」「対話」「プル」の3つの項目に分けることができる。

 

「プッシュ」とは、自分から話すことで相手を巻き込むようなコミュニケーションの取り方。演説や語りであったり、「すべらない話」のようなトークであったりをイメージしてもらえばよい。マーシャル・マクルーハン流に言えば、参加度の低い「ホット」なコミュニケーションである。

 

「対話」とは、相手と自分が交互に語りを差し出すようなコミュニケーションの取り方。僕の好きな「さし飲み」は、先輩が後輩にありがたい訓示を垂れたり、片方の一方的な語りを聴いてあげたりするものではなく、この「対話」が成り立っているさし飲みだ。

 

「プル」とは、自分に対する興味を相手に持たせるようなコミュニケーションの取り方。就職活動の面接などもこれに近い形になる。自分に興味を持たせ、相手を自分の土俵に引きずり込むコミュニケーションだ。プッシュ型と対になり、受け手に参加を要求する「クール」なコミュニケーションとも言える。

 

以上のように、 「テーマ」に関する2つの要素と、「姿勢」に関する3つの要素を掛け合わせた、合計 2 × 3 = 6(通り) が、コミュニケーションのあり方となる。

 

図にすると下記の通りだ。

 

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それぞれの領域での典型的なコミュニケーションは下記のようになる。

 

①「最大公約数」×「プッシュ」…お笑い芸人のしゃべくり

 

②「ニッチ」×「プッシュ」…マニアの趣味語り

 

③「最大公約数」×「対話」…「先週末はいい天気でしたね。どこか行かれたんですか?」

 

④「ニッチ」×「対話」…「New Orderが好きなんですか!個人的には『Technique』が一番聴いたアルバムですが、お気に入りのアルバムはありますか?」

 

⑤「最大公約数」×「プル」…「僕、高校野球をやってました」→「野球いいね。どこ守ってたの?」

 

⑥「ニッチ」×「プル」…「僕、インドのスラムで1年間不動産売ってました」→「インドのスラムで不動産営業?どういうことやねん!」

 

上記の6象限の中で、僕が冒頭で述べた「人を笑わせる、場を盛り上げる」コミュニケーションは、「最大公約数」×「プッシュ」型のコミュニケーションとなる。一般に僕らが思い浮かべる「コミュ力の高い」人物像というのも、この象限にいるイメージではないだろうか?

 

逆に言えば、この「最大公約数」×「プッシュ」の領域以外のところを狙っていくのが、僕ら「日蔭者」の取るべきコミュニケーション戦略である。

 

 

 

僕がおススメしたいのは、「最大公約数」から始めて、徐々に「ニッチ」な話に持っていくようなやり方である。

 

その際、「対話」と「プル」のどちらの領域でコミュニケーションを展開してもよいが(実際は双方を行き来する形になるはずだ)、今回は特に「プル」型のコミュニケーションについて書こうと思う。「対話」については、またどこかの機会で書くことになるだろう。

 

※「対話」について書いた記事がこちらです。人と深い話をするための、「コミュニケーションの4つのC」

 

なぜ「プル」型のコミュニケーションについて書こうと思うのか。それは、今回の記事の最終目的地となる「ニッチ」×「プル」型のコミュニケーションと、この記事を読んでくれている方々との親和性が、非常に高いと思われるからだ。

 

面白おかしくネタで場を盛り上げる、ウェ~イ的なコミュニケーションが苦手な人は、自分の世界を大切にしている人だと思う。

 

世の中の「最大公約数」にはどうも馴染めず、独自の路線を突っ走って構築してきた、自分だけの世界。他人から見れば取るに足らないようなこだわりや、理解不能な趣味で構成された、その人だけの世界だ。

 

皮肉なことに、そうやってメインストリームから外れて生きてきたことこそが、相手に「こいつは変な奴だ!」とツッコませ、「プル」型のコミュニケーションを成立させる武器となるのだ。

 

 

 

例を書こう。

 

僕は会社の先輩と「彼女とどんなデートをするのか」という話をすることがある。

 

「映画とか観ますかね」

 

「映画ね~。どんな映画観るの?」

 

ここまではどちらかと言うと「最大公約数」的な話だ。そこで、僕は「ニッチ」な話をいきなりぶっこんでみた。

 

名画座っていう、旧作だけを上映している映画館があるんですけど、そこで50~70年代のアメリカ映画を3本オールナイトで観て、その後喫茶店でモーニング頼みながらおしゃべりするとかいいですね」

 

そう言うと、先輩は「それ何が楽しいんだよ!やっぱりお前は変なヤツだなぁ」と爆笑したものだ。

 

 

 

このコミュニケーション方法には、勇気が必要だ。

 

相手が自分に興味を持ってくれるのか、自分の大切にしている世界の話を理解してくれるのか…。そんな不安が頭をよぎり、素の自分を出せずにコミュニケーションが終了してしまった経験が、あなたにもあるのではないだろうか。

 

だが、ここで非常に言いにくいことを言ってしまおう。 

 

「相手があなたの大切にしている世界を理解してくれるか」は、ぶっちゃけどうでもいいのである。

 

というか、100%に近い確率で、相手はあなたの語ったことを「理解しよう」とはしないだろう。なぜなら、その「大切にしてきた世界」というのは、「世の中の最大公約数」に背を向けてまで、あなたがせっせと作り上げてきた世界だからである。そもそも、相手との共通項にはなりえない性質のものなのだ。

 

しかし、であるがゆえに、相手の興味を引くことには成功するだろう。先ほどの繰り返しになるが、あなたがメインストリームから外れたことを言えば言うほど、相手は「ツッコミ甲斐のあるヤツだな」と感じて、「なんだよそれは!」と返してくるからだ。

 

言うなれば、「自分の大切にしている世界の話」というのは、「最大公約数」に背を向けた僕たちの放つことのできる、渾身のカウンターパンチなのである。

 

あなたは、モテてる奴や面白い奴みたいに【みんなを笑わせる】ことは、できないかもしれない。だけど「ギラギラしたまま」みんなと対話できて自己開示できれば、あなたは【みんなに笑われることができる】ようになる。(中略)

 

バカな自分を、自分で開示して(わざとらしく「おどける」のではなく「オレのことを解ってよ」と押しつけるのでもなく、ただ開示して)みんなに笑われることで、あなたは、みんなを和やかにすることができたのです。

 

二村ヒトシ『すべてはモテるためである』p.139)

 

すべてはモテるためである (文庫ぎんが堂)

すべてはモテるためである (文庫ぎんが堂)

 

 

 

 

「プッシュ」×「最大公約数」型の「コミュニケーション強者」になれなくても、さまざまな人と楽しくコミュニケーションを取れる方法は存在する。

 

これまでしっかりと構築してきた「自分の世界」の話を、ちょろっと開示してあげるだけでいい。「こんなヤツに理解できるはずない」と相手を見下すのでも、「自分のことを理解してもらえるのかなぁ」と不安に思うのでもなく、ただ自分の思うところを、気負わずに提示してみればいい。もちろん、ツッコミをもらった後は「対話」路線に持っていくことも忘れずに。

 

そうすれば、これまでとはまた別の種類の人たちと、楽しく明るくコミュニケーションできるようになるはずだから。