人と深い話をするための、「コミュニケーションの4つのC」

今日は、人と深いコミュニケーションをするためのヒントについて書いてみようと思う。

 

なお、本稿は先日書いた 人を笑わせて場を盛り上げるのが苦手な人のための、コミュニケーションの戦略。 における「対話」についてさらに詳しく書いた記事でもある。そちらの記事と合わせて読んでもらえると幸いだ。

 

 

 

さし飲みに行こう、と誘って(あるいは誘われて)、少しだけ緊張しながら、よく見知った人とテーブルにさし向かいになり(あるいはカウンターに横並びになり)、語り始める。最初は、お互いの共通の話題、天気の話や職場の話や家族の話を、ぎこちなく展開することになるだろう。

 

そんなちょっと気まずい瞬間を経て、いつもの飲み会と同じような飲んで騒いで終わってしまう飲みの場にするのか、それともいつもとは違うお互いの深い部分まで共有できるような飲みにするのかは、あなた次第だ。

 

ただ、せっかくさし飲みをするのなら、普段の生活からはわからないその人のことが、少しでも見えてくるような飲みにしたい。僕ならそう思う。そのためには、相手の価値観が露出しやすいテーマに着目して話を聴くことが必要だ。

 

相手のことを深く理解するためのヒントとなる話題を、僕は「コミュニケーションの4つのC」と呼んでいる。4つのCというのは単語の頭文字を取ったもので、それぞれ、Change、Concept、Contents、そしてComplexとなる。これらに関して、あるいはこれらの逆の概念に関して(例えばChange「変化」の逆は「変わらないこと」である)相手が語った時、その話は相手の奥深くにある価値観や考え方を強く反映したものになりやすいのだ。

 

それでは順に見ていこう。

 

 

 

1, Change

 

1つ目のC、Changeとは、「価値観や考え方の変化」のこと。

 

それまでのものの考え方、感じ方が「変わった瞬間」のエピソードが聴けると、そこに相手の根本にある価値観を発見できることが多い。

 

僕のとある友人は、大学までは受験勉強とテレビゲームしか打ち込むもののない人間だった。しかし大学に入り、クラシックギターに出会った。彼は、練習を積み、演奏会に出て、プロのギタリストの指導を受け、次第に上達していった。もちろん、大学から始めた楽器で食っていこうなんてことは、彼は毛頭考えていなかった。「俺は定時で帰れるホワイト企業に就職するんだ。ずっとアマチュアとしてギターを弾き続けたいから、そのための時間がほしいからね。」そう、彼は語っていた。

 

自己実現」と言うと、どうしてもキツい職場でバリバリ働いたり、やりたいことをビジネスにして起業したりするイメージがつきまとうが、この友人の話も立派な「自己実現」ではないだろうか。

 

さて、Change「変化したもの」の逆は何かと言うと、「変わらないもの」だ。新しい環境に飛び込んだ時、新しい人間と出会った時、それでも変わらなかったものは何かと問うことは、必然的に、相手の深いところにある価値観を聴きだすことにつながる。

 

僕がインドという異国で1年間生活してみて思ったのは、自分というヤツはどこまでも「インドア派」であり、観光名所を巡るよりもその国の土着の暮らしをこの目で目撃し、それを通してさまざまなことを考えてゆきたいと思う人間なのだ、ということだった。海外に行くと、その土地の名所・名物を目撃したり、異国の人々と友達になったり「しなければいけない」という無言の圧力を感じていた僕は、このインド行きによって、一つ自由になれた気がした。

 

 

 

2, Concept

 

2つ目のC、Conceptとは、「大切にしている考えや言葉」のこと。

 

座右の銘や好きな言葉を教えてもらうのもよいが、相手自身による造語、あるいは、辞書にはあるが相手によってその人固有の意味を与えられている言葉というのが、相手の価値観により迫るものとなりうる。

 

僕が就職活動をしていた頃に出会った東京大学の友人は、自らを「俗物」と称していた。その意味するところは、彼がどうしようもなく「世間的に一流とされる場所にいたい」「十分すぎるほどのカネがほしい」と願ってしまう人間である、ということだった。彼はベンチャーや中小規模の会社もいくつか受けたものの、最終的には超一流の証券会社に入った。この「俗物」という辞書にも載っているキーワードを、彼は彼自身の人生を振り返って再定義し、自らのアイデンティティとして人に語るようになったのだ。

 

ところで、Concept「頭の中の概念」の逆はと言えば、(これはやや言葉遊びのきらいがあるが)「実際に行動したこと」である。何も考えずに知らず知らずのうちにやってきたこと、それが自分という人間を表している、そういうことだ。

 

僕は昔から、ちょっとキツいなと思う方に足を踏み出してしまう傾向にあった。古くは坊主頭に刈り上げた高校野球から始まり、クソ体育会系なダイビングショップの泊まり込みバイト、今ではブラック企業の代名詞となっているとある居酒屋のアルバイト、そして言わずもがなのインド行き。社会人になっても、フルマラソンハーフマラソン、華金仕事終わりからの直行富士登山など、ひいひい言いながらそれなりに楽しんでいる。僕はきっと、そういう「自分がタフになれる」こと、「経験の幅が広がる」ことが好きなんだと思う。

 

 

 

3, Contents

 

3つ目のC、Contentsとは、「好きなコンテンツ」のこと。本やマンガ、音楽、映画といったインドアで楽しむものだけでなく、スポーツ、イベント、お店などなど、この世の「体感できるもの」すべてがコンテンツである。

 

インドア的なもので僕の好きなコンテンツを考えると、青春時代に聴いておくと、後からもれなく思い出になって死ねる邦楽ロック・ポップス10曲 や、思春期にみていた世界が蘇る、「またここに戻ってきたい」と思う小説10選。 を読んでもらえればわかるように、「ノスタル自慰」に浸れるものが僕は大好きだ。野球というスポーツが好きなのも、中学・高校と思春期に自分が打ち込んだ経験が、時を経て発酵し強烈なノスタルジーを感じられる思い出に変わったから、と言えるだろう。僕にとってノスタルジーはすなわちエクスタシーなのだ。

 

一方で、この逆は何かと言うと「嫌いなコンテンツ」。むしろ、好きなコンテンツよりもその人らしさが出るのが、この「嫌いなコンテンツ」の話かもしれない。

 

数年前、とある先輩とさし飲みをした時に、「君の文章は主観の歪みがなくてつまらない」と言われたことがある。その時僕はmixi(懐かしい名前だ…)に好き勝手な日記を書いていたわけだが、「目に映ったものだけを手先で書いている」と言われたのだ。その先輩は小説家志望で、「書く」ということに関しては人一倍さまざまな考えを持っていた。「一見客観的に見えるE=mc^2の式にだって、アインシュタインの『世界はこう見える』という主観が入り込んでいる。客観的なものなんてどこにもないんだ」というのが、工学部に在籍していたその先輩の口ぐせであり、心から信じていたことなのだと思う。だからこそ、「雰囲気重視で僕以外の人間でも書けるような」文章に、モノ申したかったのだろう。その後しばらく経ってから、とある飲み会で話した時には、「最近のブログは自分をさらけ出してて、よくなったね」と言われ、嬉しかったものだ。 

 

 

 

4, Complex(コンプレックス)

 

4つ目のC、Complexとは、文字通り「コンプレックス」(※)のこと。人間を突き動かす原動力は、多くの場合、身も蓋もないコンプレックスだ。

 

※この記事では、コンプレックスは一般的に広まっている「劣等感」の意味で用いることとする。本来の心理学用語で「劣等コンプレックス」と呼ばれる意味合いである。ご了承願いたい。

 

例えば、僕を動かしているコンプレックスは下のツイートの通りだ。

 

 

人気者になれなかったから、僕が「スクールカースト」から解放された日。 という記事を書くようになったわけだし、やりたいことがわからなかったからこそ、死ぬまで死ぬほど自分探し、それでいいんだ。 という記事を書くようになった。今自分が行っている「文章を書く」という行為の裏側にあるのは、それらのコンプレックスであることは間違いない。

 

Complex「劣等感」の逆は何かと言えば、これは「優越感」である。他者に対して自分のどのような点が優れていると考えているか、その部分にも、その人の価値観が強く表れる。

 

僕がこれまで出会った人間の中で、「コミュニケーションの神」だと思える人が1人いる。彼は高校時代の友人であり、大学の時も同じアルバイト先で働いていた。なぜ彼がコミュニケーションの神と言えるのか。それは、僕がスクールカースト的なものに四苦八苦していた高校時代にはクラスの中心人物として活躍し、僕も何度かライブを見に行ったバンド活動では非常にやんちゃなヤンキー感溢れる仲間たちと一緒に真剣に音楽に打ち込んでおり、それでいて僕のような人間と4時間も居酒屋で話し込むほどの深い話もできる人間だからである。

 

そのさし飲みの時、彼はこんな風に言っていた。「俺ほどいろんな人のおもしろさを認められる人間はあまりいないと思う。誰だって、人とはちょっと変わった部分がある。そこをいじってあげられれば、どんな人間にだっておもしろさは見つけられる」と。「おもしろくない人間などいない」という彼の信念が、「自分が優れていると思っている部分に関する話」から透けて見えてくるのではないだろうか。

 

 

 

その人の価値観が露出しやすい「4つのC」に注目することで、さし飲みはより楽しく、怖くないものになる。共通の話題など無くても、「なんか話しにくいなぁ」と思っている相手に対しても、この「4つのC」は有効な武器となってくれる。そして、新しい人との繋がりが生まれる。

 

さまざまな人のことを少しでも深く理解したいと思う人にとって、この記事が何かしらの参考になれば幸いである。