毎朝9時に出社し、ひたすら仕事をこなし時には詰められ、ふと気がつくと夜9時を回っている…。Mr.Childrenの『雨のち晴れ』に出てくるほど単調な生活ではなくとも、大学時代からは考えられぬほど「充実した」僕の生活だ。
大学生の頃は、2限目あたりの講義にちょろっと顔を出し、お茶の時間には鴨川をぶらぶら、友達と学食で安い晩ご飯を食べて、オンボロなサークル棟で夜中までギターを練習する、そんな生活だった。
今の僕にはもう絶対に手の届かない、たくさんの「無駄」や「隙間」が存在していたあの時代。自分は何者なんだろう、これからどう生きていくんだろう…。持て余した時間についそんなことを考えてしまって、眠れなくなってしまう夜もあった。
今日は、青春時代の僕が一人暮らしのアパートで丑三つ時を共に過ごしたロック・ミュージックを10曲、紹介しようと思う。
第10位
Two, Three, Fall / Mice Parade
Mice Parade - Two, Three, Fall.mov - YouTube
いわゆる「ポストロック」と呼ばれる分野は分け入っても分け入っても聴ききれない数のアーティストがいる印象だが、その中でも好きで聴きやすい1曲。
この曲を聴くと、夜の京阪電車に乗って窓の外をぼんやり眺めていた、あの秋のひと時を思い出す。奇妙な拍子や♯・♭の大量に入り混じったコード音に乗って流れるキャッチーで切ないメロディは、どこか遠い異国を思わせると同時に、妙に懐かしく僕の耳に響くのだ。
第9位
日本語なのに異国的な雰囲気を醸し出す、YMOの名曲。外国人から「日本」を見つめたらこんな感じなんだろうかと思わせる。深夜にぼんやりとこの曲を聴いていると、次第に自分の気が狂っていくのではないかという幻想に囚われる。
この曲を聴いていると、ジョージ・オーウェルの小説『1984』で、主人公が「ビッグ・ブラザー」に見守られながら体操を行うシーンが思い浮かぶ。惜しくもこの曲がアルバム『テクノデリック』に乗って世に出たのは1981年だけど、冷たい世界観に背筋がゾッとするのは、どちらの作品でも同じだ。
第8位
Search And Destroy / The Stooges
The Stooges - Search And Destroy - YouTube
1960年代後半から70年代前半のバンドといえば、僕の好きなカオティックで内向きな音を出すバンドがどうしても少ない。そんな時代にオルタナの元祖とでも言うべき音を出していたバンドが、The Velvet UndergroundとThe Stoogesだ。
四条通を酔っ払って歩きながら、大音量でこの 'Search And Destroy' をイヤホンに流す。タテ乗りで首をぶんぶん振っている僕の横をチャリに乗ったオバハンが迷惑そうに通り過ぎて行くのを見て、ふと我に返る。そんなことを、愚かにも何度か繰り返した気がする。
イギー・ポップの声を聴いていると、自分が何でもできるような気がしてくるのが不思議だ。
第7位
ゴイステとどちらにしようか迷ったが、僕がよく聴いていたのは銀杏BOYZだったのでこちらにした。
この「非モテロック」とでも言うべき音楽が、僕は大好きだ。恵まれた人間がカッコいい音楽をやるのも、それはそれでいいものだが(金持ち坊ちゃんバンドのThe Strokesとかがそれにあたるのだろうか)、やっぱりロックは良いも悪いもひっくるめたその人の衝動を歌いあげるものであってほしいから、汚い欲望も美しい旋律も自らの音楽に乗せてしまう銀杏BOYZというバンドに、僕は惹かれる。マンガ『モテキ』の作中に女の子がこの曲をカラオケで叫ぶシーンがあるが、そんな女の子がいたら素敵だなと思う。
曲中、バッハの『主よ人の望みの喜びよ』を引用している部分がある。僕が大学のクラシックギター部で初めて弾いたのが、この曲だった。大先輩から「バッハは通奏低音を意識しろ」と口を酸っぱくして言われたあの日々が、つい昨日のように思い出される。
第6位
Friday I'm In Love / The Cure
The Cure - Friday Im In Love - YouTube
The Cureの音楽はとても抒情的だしメロディがしっかりしているので、日本人の耳にも合うのではないかと思う。その中でも特に素晴らしいなと思う1曲。全曲聴いたバンドではないのだが、アルバムだと 'Bloodflowers' が好きかな。
この曲はなぜか就職活動の時によく聴いていた。今働いている会社から内定の連絡をもらった後、「これで当分は東京ともおさらばだな」と思いながら乗った新幹線で 'Friday I'm In Love' を聴いたことを覚えている。
たわいもない話だが、映画を観ていると時折「この映画にはこのバンドが合うなぁ」というマッチングを思いつくことがある。それで言うと、『シザーハンズ』を観た時はドンピシャでThe Cureだ!と思ったものだ。(他の組み合わせで言えば、『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』とThe Smiths、『台風クラブ』とNumber Girlとか。)
第5位
Mr.Children - ロードムービー - Q tour - YouTube
今なお邦楽ロック・ポップス界に燦然とそびえ立つ名盤 "Q" 。オートバイの後部座席に女の子を乗せて夜の高速道路をひた走った思い出など僕にあるはずもないが、心地よくキープされたリズムとギターのストロークが、高速道路のつなぎ目の「ガタン、ガタン」という規則正しい衝撃を思わせる。
僕がミスチルと出会ったのはそれこそ小学校高学年くらいの時だったが、 "深海" や "DISCOVERY" 、 "Q" といったアルバムの凄さを思い知ったのは、それからずいぶん後だった。
第4位
Disorder / Joy Division
Joy Division - Disorder - YouTube
若くして死んだ伝説のフロントマン、イアン・カーティスをボーカルに据えたカルト的バンド。暗い洞窟の中でずっと虚ろに鳴っているような音楽が、妙に胸にくる。
代表曲 'Love will tear us apart' ももちろん名曲なんだけど、僕はこの名盤 "Unknown Pleasures" を丸ごとお勧めしたい。1曲目の 'Disorder' を聴くだけでぶっ飛ぶはずだ。
イアン亡き後、New Orderに転身を遂げてからの彼らの音楽も僕は大好きだけど、夜に鬱々としながら聴くならやっぱりJoy Divisionではないだろうか。
第3位
No Surprises / Radiohead
Radiohead - No Surprises - YouTube
「俺はウジ虫だ」と歌っていた1stアルバムの頃から大変身を遂げた3rdアルバム "OK Computer" 。 'Airbag' から続く、機械的で取り付く島のないタフな音の連なりの中で、唯一癒しと言ってもいいのがこの曲だ。
映画『スパニッシュ・アパートメント』では、ラストシーン近く、主人公が留学生活を回想するシーンで、この 'No Surprises' が流れる。そこに入ってくるナレーションがまた良い。「なぜ(スペインに)行ったのか?今もわからない。僕は平凡な男」。
僕はこのシーンがとても好きで、思わず涙ぐんでしまったものだ。
僕も昔、理由もなくインドに旅立ち、その地で1年を過ごしたことがあった。自分が特別なことを経験すれば、特別な人間になれると信じていた、そんな時代があった。だが、異国で悟ったのは、自分は何者でもない、ただの凡人でしかないという事実だった。
人生の早い段階で「自分には特別なものなど何もない」と思い知れたことこそが、今の僕のアイデンティティになっている。だから、何か新しいことをしようと思い立った人には、別にそこに大した理由などなくても、ぜひ挑戦してみてほしいのだ。挑戦して、自分が大したことのない、空っぽな人間だと思い知ってほしいのだ。そこから人生が始まるのだから。
第2位
Last Scene / スーパーカー
Supercar - Last Scene [PV] - YouTube
今日の記事のタイトルに一番合っている音楽は文句なしにこれだと思う。解散間際のスーパーカーの微妙な空気がPV含め至るところで感じられて、美しさと悲しさを同時に感じさせる。
僕はよくこの曲を聴きながら真夜中の鴨川沿いを歩いていた。3月の川端通を渡ってくる風は冷たくて、時折すれ違う車のヘッドライトが優しく目にしみて…。どうするあてもなく三条通まで歩けば、対岸の木屋町通の灯りがずっと南の方まで伸びていた。明日の講義どうしようかなぁ、出ないと単位ヤバいなぁ、でも今はこの夜にずっと佇んでいたいなぁ、毎日そんな贅沢な時間の使い方をしていた。
生産性なんてまるでなかったけれど、今でも夢に見る、素敵な風景。
第1位
1989 / The Pillows
ごく個人的な思いでこの曲を1位にした。深夜に内向きなロックをひたすら聴いている僕は、当然1人だ。ひたすら悶々と悩んでいた時もあったと思うし、どこにも届くあてのない文章を書いていた時も、きっとあったと思う。
そんな僕をずっと応援し続けてくれている音楽が、この '1989' という曲。
一番最初に聴いたのは、たぶんインドの崩れかけたアパートの一室で、同室のインド人たちが寝静まった後だったと思う。「君に届くように歌っていたのさ」という部分で、僕はすすり泣いた。ずっと一人ぼっちだった僕の背中を、「そのままでいいのさ、もがき続けろ」と押してもらったような気がした。
先日、僕が前に書いていたブログに立ち寄った。そこに、とても嬉しいコメントがついていた。3年間ずっと読んでいました、あなたの投げる一石が大好きでした―。これだけで僕が文章を書いていた意味はあった、そう思えた。
正直、書いた文章で有名になりたいという欲望は、昔からずっとずっと感じている。同時に、僕の書きたいものがまったくもって大勢に受けるものではないことも、わかっている。腹に抱えたそんな欲望や矛盾を正直に書いていくことだけが、僕にできることなんだろうなと思う。それを読んで救われる人も、きっといるはずだ。
一度はメジャーな世界を夢見たものの、'ストレンジカメレオン' で国民的バンドになるという夢と決別し、ひたすら自分たちの道を歩み続けたThe Pillowsというバンド。自らをそこになぞらえるのはおこがましいけれども、少なくとも彼らの魂やメッセージは胸に秘めて、これからも生きていきたい。この '1989' という名曲とともに。
この記事を書いていて、「無駄なものをたくさん抱えた人間になりたいな」と思った。
たくさんの音楽とそれらを聴きながら思考した内容が、今の僕をつくっているのだ。