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就職先を「人」で決めてはいけない理由。

就職活動において、最終的にその企業に決めた理由で最も多く挙げられるのは、「人」という理由ではないだろうか。

 

人が合うから、人が魅力的だから…。言い方はなんでもいいが、要するに「いいなと思える人がたくさんいそうだ」というのが、「人で決めました」という言葉の意味である。

 

しかし、僕は企業を「人」で選ぶのは非常にリスクの大きな行為だと思っている。特に、大企業を志望する人であればあるほど、志望動機を「人」に置くのはやめた方がいい。

 

なぜなら、就活生が観測できる「人」のサンプルの数は非常に少なく、それだけで企業全体の人の雰囲気を掴むのは困難だし、仮にその仮説が当たっていても、実際に現場で一緒に働くのはその中のごく一部の人に過ぎないからだ。

 

 

 

僕は就職活動をしていた頃、今所属している会社とは別の広告代理店も受けていた。OB訪問も、エントリーシートを出したところは最低3人程度していた。

 

前回の記事「マジメな人のための、広告代理店での戦い方。」で登場していただいた「三つ編みドレッドヘア氏」も、とある大手代理店に勤める方である。

 

僕は就活の初めの頃、そのドレッド氏が勤める代理店を志望していた。そして、ドレッド氏を含め3名の社員の方にお会いさせていただいた。OB訪問の時間はとても楽しく、向こうがどう思ったかはさておき、僕の方はこの会社に入りたいと心から思ったものだ。

 

ところが、その社員の方々のご厚意で別の部署の方々ともお会いさせていただいたところ、どうも自分がイメージしていたような話ができなかったのだ。

 

結局、全部で6名の方とお話ししたものの、最初に感じていた高揚感は薄れてしまった。

 

ここからわかることはなんだろうか?

 

それは、「僕がその企業の社風と合っていなかった」ということではない。

 

「数人程度に面会しただけでは、その企業に勤める人の雰囲気など到底わからない」ということなのだ。

 

 

 

ある母集団の持つ傾向について、それなりに信頼のおける仮説を立てるのに必要なサンプルサイズは決まっている。

 

例えば、従業員数が10000人の企業があったとしよう。

 

10000人全員にOB訪問をすれば、当然ながらその企業の社風を間違いなく掴むことはできる。だが、そんなことはまず不可能だ。

 

実際は、ある程度の人数にだけOB訪問することになるだろう。

 

その時、何人の社員にOB訪問すれば、それなりの確度でその企業の社風を掴むことができるだろうか?

 

結論から言ってしまえば、370人程度、というのが正解になる。

 

統計の言葉に直せば、「それなりの確度でその企業の社風を掴む」ことを、「95%の確率で、全員にOB訪問した場合に掴んだ社風と合致する(=20回繰り返せば19回は合致する)」ことと仮定した場合、ということだ。(計算式は省略するが、「サンプルサイズ 算出」ででもググってみてください。)

 

つまり、10000人の従業員数を持つ企業の社風をOB訪問によって明らかにしたい場合、最低でも370人はOB訪問しないと、それなりの強度を持つ仮説はできあがってこないのだ。

 

従業員数が1000人、100人の場合は、それぞれ278人、79人となる。

 

要するに、僕らが数人~十数人にOB訪問してわかった気になる「社風」など、吹けば飛んでしまうくらいの頼りない仮説でしかないのだ。

 

(上記の計算はかなり端折ったものなので、興味のある方は東京大学出版会が出している『統計学入門』を読んでみてください。高校数学がわかってさえいれば、最後まで読める本です。)

 

統計学入門 (基礎統計学)

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統計学が最強の学問である

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さて仮に、信頼に足るサンプルサイズをOB・OG訪問で稼ぎだす猛者がいたとしよう。

 

ちなみに、広告業界では年に何人かの学生が「OB訪問を何百人やった」という自己PRで選考を突破している(らしい)ので、こういった学生がいると仮定するのは決して荒唐無稽なことではないのである。

 

だが、仮説を立てるのに十分なサンプル数を集めたとしても、僕はやはり「企業は人で選ぶべきではない」と言うだろう。

 

なぜなら、現場であなたとともに働くことになる上司や先輩は、あなたがその仮説で導き出した「その企業に勤める人の平均値や最頻値」などではなく、生身の人間だからである。

 

これは会社に限らず学校やサークルでも同じだと思うが、集団には、本当に様々な人がいる。自分とは到底合わないと思うような集団にめちゃくちゃ話せる人がいるかもしれないし、すっごく雰囲気の合いそうな集団に顔も見たくなくなるほど相性の悪い人がいるかもしれない。

 

あなたは、思っていたのと全然違う人たちと一緒に働くことになるかもしれない。当たり前だ。あなたはその企業に所属する人全員にOB訪問したわけではないのだから。

 

もし、自分と合わない人と日々働くことになったら、「人」で企業を選んだあなたはどうするのだろうか?異動届けを出す?そう簡単にはいかないだろう。仕事を辞めちゃう?そんなのもったいない。

 

「次世代の凡人」に告げる、これからの生き方 でも書いたけれど、これからの時代はむしろ「簡単に仕事を辞めない人」の価値が高くなる時代だ。

 

しかし、企業を「人」で選んでしまうと、もし自分の周りにいる人たちが自分の期待していたような「人」でなかった時、その場所に居続ける理由はなくなってしまう。

 

だから、企業を「人」で選ぶのは、よすべきなのだ。むしろ、ちょっと違うかな、自分はこれまでこんな雰囲気のところに所属したことはないな、と思うくらいの場所の方が、日々新しい価値観に触れることができて良いと思う。

 

 

 

と、ここまで「就職先は人で選ぶな!」ということを散々書いてきたわけだが、唯一「人」を志望動機に絡めて良い場合があると思う。

 

それは、「この会社にはこういう人が多くて自分はそういった人たちが好きだから」という浅い理由ではなく、「この会社はこういったビジネスモデルをしていて、そのためにはこういう人(つまり自分)を雇うのが会社にとってメリットになるから」というところまで、掘り下げて考えられていた場合だ。

 

なぜ、ある会社には特定のタイプの人が多いのか?それは、そういうタイプの人たちを雇うと会社に利益があるからである。

 

例として、広告業界を挙げて考えてみよう。

 

日本の広告代理店の収益源は、(現在それが良いことなのか悪いことなのか取り沙汰されてはいるが)メディアマージンである。このビジネスモデルは、広告代理店の起源である「新聞の広告枠の取り次ぎビジネス」の時代から連綿と続いてきた。今でも代理店がマージンビジネスをしているのは、大手代理店がウェブ上で公開している自社の収益の内訳を見れば一目瞭然だと思う。

 

つまり、クライアントの伝えたいものをできるだけたくさんのメディアに乗せて「広く告げる」ことは、メディアマージンで食っている広告代理店の売上を伸ばすことに直結しているわけだ。

 

「多くの人に広く知らしめるのが大好きな人たち」は、このような広告代理店のビジネスモデルと非常に相性が良い。だから採用される。それは、広告業界にはなぜ合コン好きな人が多いのか。 をはじめ、僕が何度かこのブログで書いてきたことだ。

 

もし、「人」を理由にして就職先を選びたいのであれば、まずはビジネスモデルを見てみることだ。「その会社にいる人たち」のみに注目するのではなく、「その会社のビジネスとその会社にいる人たちとの関係」「その会社のビジネスとその会社を目指す自分との関係」について考えてみるべきだ。

 

そして、聡い人は既におわかりかもしれないが、もしあなたが意中の会社のビジネスに利益をもたらすような強みを持っているのなら、必然的にその会社にいる人たちとも気が合う可能性は高くなる。

 

「会社」と「会社にいる人たち」との相性が良くて、「会社」と「自分」との相性も良いのなら、「会社にいる人たち」と「自分」との相性が良いのは、まあ当たり前と言ってもいいことだろうから。

 

(ところで、上の例では「日本の広告代理店の主要ビジネスはメディアマージン」と書いたが、広告代理店がそこから脱却しようともがいているのも事実である。そういった広告代理店の試行錯誤について知りたい人には、『電通デザイントーク』を勧める。広告代理店の使命がもはや広告だけでないということを、考えてみるきっかけになるだろう。)

 

電通デザイントーク Vol.1

電通デザイントーク Vol.1

 

 

 

 

多くの人が、就職活動の志望動機で「人」を挙げる。

 

しかし、それは説得力のある志望動機になっているのだろうか?

 

本当は、それ以外に他社と差別化できる決め手がないから、「人」という志望動機に逃げているのではないだろうか?

 

「10人程度のOB訪問ではうちの会社のことはわからないんじゃないかな?」

 

「もし、配属先で思っていたのと違う人たちと仕事をすることになったら、どうする?」

 

面接でそんな疑問をぶつけられたら、あなたはどうするだろう?

 

もちろん、そんなところまで突っ込んで聞かない会社も多いだろう(僕が面接官になったら聞くと思うけど)。

 

僕が言いたいのは、面接をパスするかどうかということではない。他ならぬあなた自身にとって、「人」で会社を決めるのはリスクのある行為ですよ、ということなのだ。

 

 

 

取りうる道は二つだ。

 

一つは、それでも「人」を志望動機に据えるやり方。

 

その場合は、「志望動機はこの会社の人たちとお会いして素敵だなと思ったからです。でも、どんな人と仕事をすることになっても、上手くやれる覚悟はあります」と言い切ること。 

 

ただ、このやり方だと自分の強みのアピールにはならない。OB訪問をそれなりにしているという熱意や、どんな人とも働くという覚悟は伝わると思うけど、逆にこだわりが無いのかと思われる危険性もある。

 

もう一つは、「その会社にいる人」だけを見るのではなく、その会社の事業内容やビジネスモデルと、その会社の従業員や自分といった「人」とを結びつけて考えるやり方。

 

その企業や業界のビジネスへの理解、 自分自身についての理解など、思考力の深さを披露することができるし、「自分の強みはこういったところです」と言うところで直接的なアピールもできる。

 

ただ、このやり方は「机上の空論」にならないように注意すべきだ。社員に会ったことのないヤツが「御社はこういったビジネスをしているため、こういった人が求められていると思い…」などと語り出したら、殴りたくなるだろう。

 

結局のところ、 実際にその会社の社員に会って話をしつつ、「それがすべてではない」ということがわかっている人間、自分をアピールする時にその業界や会社のビジネスと直結させて考えられる人間が、求められているのだと思う。

 

 

 

「人が魅力的だったから」という思考停止した志望動機を語るのはやめ、「なぜその会社にはそういった人たちが多いのか?」「自分はその会社のビジネスに役立つ強みを持っているのか?」と考えよう。

 

そして、「どんな人が上司や部下になっても、どんな人がお客さんになっても、上手くやっていこうとする覚悟」が社会人には不可欠なのだということも、忘れてはいけないと思う。